Ruby会議、英語学習、最新AIをゆるく語る

助手席の竹内(@rikson_en)がいつものようにテンション高く話し始めたのは、松山で開催された RubyKaigi 2025 の余韻がまだ身体から抜け切らないからだろう。 ハンドルを握る私は「三日間フル参加してきたんだって?」と水を向けたが、返ってきたのは「夜のドリンクアップも三連投でしたよ」という予想どおりの答え。 なるほど、今年の RubyKaigi は“お祭り”そのものだったらしい。

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三日間だからこそ深まる国際交流

竹内が最初に挙げた特色は、三日間開催ゆえの“再会”体験だ。初日に名刺交換した相手と翌日も顔を合わせ、三日目にはすっかり仲間意識が芽生える――そんな繰り返しが、参加者どうしの距離を一気に縮めるという。会場と夜の飲み会には海外エンジニアが多く、英語での雑談が自然発生する一方で、彼らの日本語もなかなか堂に入っていたとか。「語学力の壁は意外と低いんですよ」と竹内。SNS フォローだけで終わる刹那的な縁かもしれないが、それでも“世界の Ruby 仲間”を肌で感じられる三日間だったようだ。

キーノートは絵文字バグと AI 時代の言語論

初日のキーノートを飾ったのは文字コード実装者のバグ修正秘話。IRB で家族絵文字を入力してバックスペースを二度押すとクラッシュ――そんなニッチな不具合を追いかけた結果、コントリビューターからメンテナーへ昇格したという物語だ。複合絵文字が持つ複数コードポイントの落とし穴を丁寧に解き明かす姿は、“好きが高じてコミッタになる”Ruby らしい美学そのものだったと竹内は語る。

最終日には Matz が登壇し、生成 AI が当たり前になりつつある時代に「言語が型チェックをどこまで背負うべきか」を問い直した。AI が十分に賢くなった未来では、静的型検査の一部はモデルが推論してくれるかもしれない。しかし Ruby はあくまで「簡潔で表現力が高く、拡張しやすい──そして書くのが楽しい言語」であり続ける、と改めて宣言された。型を“パズル”として楽しみたい人は Steep や Sorbet を、テスト駆動で型定義を生成したい人は RBS‑trace を――コミュニティの多様な流派が共存する光景が印象的だったという。

IoT に広がる PicoRuby と CLI 作曲ツール groovebox‑ruby

技術セッションでは小さなマイコンで動く PicoRuby や、ライブコーディング向けの groovebox‑ruby が意外な人気を博した。前者は災害予測用センサーを想定した組み込み用途が紹介され、後者はコマンドライン上でビートを刻むデモが“中二心”をくすぐったそうだ。GUI 全盛の今だからこそ、制限された環境で創作する行為に人間らしい価値が宿る――竹内はそう感じたらしい。

懇親イベントとコスト感覚

一万円のスーパーアーリーバード・チケットにフリードリンク三夜分が含まれるのは“破格”。ただし一日目のオフィシャルパーティーは五千円の割に「刺身バイキングは少し寂しかった」と苦笑交じりに回顧する。一方、三日目深夜の DJ アフターパーティーは六百円で入場でき、重低音に身体を揺らす外国人参加者の熱気が窓ガラスを震わせた。クラブ慣れしていない竹内は数曲で退散したものの、非日常感は存分に味わえたようだ。来年は北海道開催と噂されるが、「旅費がネック……発表ネタができたら考える」と早くも費用対効果を検討している。

Ruby の現在地とスタートアップ事情

僕の問いかけで浮かび上がったのは「下火説」に対する竹内の実感だ。海外では確かに新興言語が脚光を浴びているが、日本のスタートアップでは依然 Rails が主力フレームワーク。長寿ゆえに派手さはないものの、成熟した MVC と巨大な知識ベースが選択理由になっているという。参加者数が過去最多を記録した今年の RubyKaigi そのものが、生き残りどころか“再燃”を示す証左なのかもしれない。

AI コーディング支援ツールの実務導入

後半は車窓に夜景が流れる中、開発現場の AI 事情に話題が転じた。社内でビジネスプランを契約した Cursor は Claude 3.7 相当モデルを IDE に統合し、日本語コードレビューの質が秀逸だという。一方でタスクベースのClineは便利だが、従量課金に注意が必要。ツール選定の鍵は「自動化したいフローと課金モデルのバランス」と結論づけて、ジムの駐車場に車を滑り込ませた。

まとめ――“楽しい”を拡張するコミュニティへ

三日間の RubyKaigi は、言語仕様の未来からライブコーディングまで振れ幅の大きいセッションが絶え間なく続き、夜は国境も肩書きも超えて杯が交わされる。竹内の言葉を借りれば「型を書く楽しさも、型を書かない楽しさも、Ruby には同居できる器の大きさがある」。AI がコードを書く時代でも、人が集まり語り合う熱は変わらない──松山の夜風とともに運ばれたその熱気を、来年はどの土地が引き継ぐのだろうか。

話題に上がったツール等